トランスパイラとモジュールバンドラ
複雑化するWeb開発
JavaScriptは、当初はWebサイトに簡易的な動きを追加させるための言語として設計されました。しかしながら、高度なWebアプリケーションの台頭や、Node.jsをはじめとしたブラウザにおけるJavaScriptのユースケースの広がりにより、標準的なJavaScriptのみでの開発には限界があること がわかってきました。
このため、現代では、JavaScriptは事前に何らかの変換を行っておくことが一般的になっています。
トランスパイラ
トランスパイラは、ソースコードを別のソースコードに変換するためのプログラムです。JavaScriptにおいてトランスパイラが必要になるのは、主に2つの理由によります。
ひとつは、最新の機能を使用するためです。JavaScriptの言語仕様は、Ecma InternationalのTC39によって作成されていますが、新しく策定された仕様は、まだブラウザなどによって実装されていない場合があります。Babelは、そういった最新の言語仕様に沿って書かれたプログラムを変換し、古い仕様の範囲内で解釈できるプログラムに変換するための、最も有名なトランスパイラです。
もうひとつは、別の言語で書かれたプログラムをJavaScriptに変換するためです。次の章で扱うTypeScriptは、トランスパイラを用いてJavaScriptに変換されます。
モジュールバンドラ
通常、規模の大きなプログラムは、見通しが良くなるよう複数のファイルに分割されます。HTMLから複数のJavaScriptを読み込むためにはscript
タグを並べれば良いですが、HTTPサーバーの節で学んだように、script
タグの数だけHTTPリクエストが発行されてしまうため非効率的です。
webpackのようなモジュールバンドラを用いることで、複数のJavaScriptファイルを統合できます。
なお、Node.jsの場合は、モジュールの読み込みはファイルの読み込みに過ぎず、ネットワークを経由することはないため、このプロセスは通常必要ありません。
Viteを用いたフロントエンド開発
Web開発の領域では、ブラウザ (クライアント) で動くJavaScriptプログラムをフロントエンド、サーバーで動くプログラムをバックエンドと呼ぶことがあります。
Viteは、主にフロントエンドの領域における、トランスパイラやモジュールバンドラなどの機能を持つソフトウェアです。
Viteを用いて新しくプロジェクトを作成してみましょう。
詳細な手順は次のとおりです。
まずは、ターミナルでカレントディレクトリをプロジェクトフォルダを格納するディレクトリに移動し、
npm create vite@latest
を実行します。Select a framework
と尋ねられるので、Vanilla
を選択してください。その後、Select a variant
と尋ねられるので、JavaScript
を選択してください。
すると、package.json
を含む新しいディレクトリがカレントディレクトリに作成されます。このディレクトリをVS Codeで開きましょう。
続いて、作成されたpackage.json
をもとにnpmから必要なパッケージをダウンロードするため、
npm install
を実行します。完了したら、
npm run dev
を実行してください。
Vite内蔵のウェブサーバーが起動し、http://localhost:5173/
でウェブサイトが表示されます。
Viteの仕組み
Viteの挙動を理解するため、control + C (macOS) / Ctrl + C (Windows) で先ほど起動させたウェブサーバーを停止させ、npm run build
コマンドを実行してみましょう。
$ npm run build
> vite@0.0.0 build
> vite build
vite v4.3.5 building for production...
✓ 7 modules transformed.
dist/index.html 0.45 kB │ gzip: 0.30 kB
dist/assets/javascript-8dac5379.svg 1.00 kB │ gzip: 0.60 kB
dist/assets/index-48a8825f.css 1.24 kB │ gzip: 0.65 kB
dist/assets/index-44b5bae5.js 1.45 kB │ gzip: 0.75 kB
✓ built in 64ms
これにより、カレントディレクトリにdist
ディレクトリが作成され、トランスパイルとバンドルの結果が格納されます。
出力されたファイルを元のファイルと比較してみましょう。元のindex.html
やmain.js
が、変換された状態で出力されていることがわかります。ディレクトリごとNetlify Dropなどにアップロードすれば使用可能になるでしょう。
npm run
コマンドnpm run
コマンドは、package.json
のscripts
プロパティに記載されたコマンドを実行します。開発によく使うコマンドを登録しておくことで、コマンドを打つ手間を削減できます。
npm create vite@latest
が自動的に生成するpackage.json
のscripts
プロパティは、次のようになっていました。ここに記載されたコマンドでは、npx
コマンドを用いたときのように、npmでインストールされたパッケージをそのまま実行できます。例えば、npm run dev
コマンドを実行することで、npx vite
に相当する処理が行われます。
{
"scripts": {
"dev": "vite",
"build": "vite build",
"preview": "vite preview"
}
}
npmのパッケージをWebブラウザ上で利用する
npmのパッケージがブラウザ上での実行に対応している場合は、Viteをはじめとしたトランスパイラやモジュールバンドラにより、ブラウザ向けのJavaScriptに変換させられます。例としてdate-fns
パッケージを使用してみましょう。
import { format } from "date-fns";
document.getElementById("app").textContent = format(
new Date("2022-01-10"),
"yyyy年MM月dd日",
);
フロントエンドとバックエンドの統合
Viteなどのツールによって出力されたブラウザ上で動くアプリケーションと、Node.jsをはじめとしたサーバー向けのアプリケーションを統合するためには、複数の手法が考えられます。
最も単純なアプローチは、ビルド時に統合することです。この方法のメリットは、本番環境にデプロイするのが簡単であることです。ディレクトリ構成は、例えば次のようになります。
app
├── client
│ ├── index.html
│ └── main.js
├── package.json
├── package-lock.json
└── server
└── main.mjs
npm run build
コマンドによってViteがビルド結果を/dist
に出力するようにしておきます。
{
"scripts": {
"start": "node server/main.mjs",
"build": "vite build client --outDir ../dist"
}
}
express.static
によりViteが作成したディレクトリを指定すれば完成です。
import express from "express";
const app = express();
app.use(express.json());
// Viteによって出力されたディレクトリを配信する
app.use(express.static("./dist"));
app.listen(3000);
演習問題1
chart.js
を用いると、ブラウザ上に非常に美しいグラフを描画することができます。このパッケージを用いて、適当なデータをビジュアライズしてみましょう。
演習問題2(発展)
Viteを用いて作成したWebフロントエンドと、Node.jsのバックエンドが協調して動作するアプリケーションをRenderにデプロイしてみましょう。